家づくりストーリー
住暮楽で家を建てられたお客様自身の文章を掲載しています。家づくりのヒントになれば幸いです。
ビフォーアフターの匠が自邸を新築したら
建築家 豊田悟氏
豊田空間デザイン室主催。
ゆとり空間請負人としてTV出演の他、住宅の新築、
リノベーション等多数の実績がある家づくりの「匠」。
土地が決まるまで
長年住んでいた関東から大津市に引越したのは、三年前になります。生活するのに丁度よいサイズの京都に移り、趣味のスケッチ散歩をしながら設計の仕事が続けられたらと望んでいました。 その時は思うような土地が京都に見つからなかったのと、自然豊かな風景のひろがる琵琶湖に惹かれ、 大津に中古住宅を購入。落ち着いたらいずれは京都へと、時折土地の不動産情報を探しているうちに、手頃な物件が一年前に見つかり、思い切って購入ということになりました。
「工務店さん探し」
構造を見せ、自然素材を使った温もりのある家にしたく、土地購入の数か月前から、工務店さんも探し始めていました。 最初に訪れた「住暮楽」さんのアットホームな仕事ぶりに共感し、迷うことなく決めることができました。
エスキース(ラフ案のスケッチ)の前に
設計の仕事に携わって四十年と経ちますが、実は自宅に関しては紺屋の白袴。増改築は何度かしましたが、新築は初めてなのです。 時間をかけてじっくり案を練るつもりが、動き出したらあっという間、結局は十一か月余りで竣工となりました。
敷地環境から設計の手がかりを考える
風致地区、特別修景地域のため、外観は形状・仕上げとも自由にデザインするわけにはいかず、狭い土地なので配置も難しい。 しかし、制約があるからこそ京都の街並に協調するように、伝統的な形のなかに清々しくかつ懐かしさを感じるイメージを表現するという新たなチャレンジとなりました。 ヒューマンスケールで馴染み易いアプローチをと考え、道路側は二.五メートルほど控えて、さらに平屋部分の屋根をかなり長く緩勾配で架けて、中へといざなうようにしています。 また、北側は一メートル余裕を持たせ、南側は二メートル程の空きとなったため、サービスヤードと和室前に濡縁、植栽で小さな庭ができました。
小さな家で心地よい暮らし
小さい住まいで大きな暮らしというのが私たちの家づくりの基本です。鴨長明の「方丈の家」やル・コルビュジェの「夏の休暇小屋」とまではいきませんが、 住まいは平屋でコンパクトにしたいと妻とはよく話していました。それを実現しようとすると二十坪弱の家づくりということになります。それでは四人で暮らし、 さらに仕事場というのはさすがに無理でしょう。そこでニ階建+ロフトということで進めました。 数案作って検討しながら(あれこれスケッチしているときが楽しいものです。)、結局平面構成はシンプルイズベスト、最も単純な案になりました。 しかしその単純さは平面では想像がつかないものを立ち上げるという設計の醍醐味にもなりました。
家をつくることは暮らしを形にすること
プランについては、間取りを3LDKというような紋切り型にはせず、これからの私たちの暮らしや仕事に何が必要なのかを形にするように進めました。 例えば訪れる人に対して構えず、敷居を高くしないようにして、気楽にカフェにでも立ち寄るような感覚の住まいにしたいと考えています。いっそ玄関とリビングを無くして、 もっと多目的に使えるスペースを目指しました。そしてナチュラルな衣食住、いわば「生成りの暮らし」というのをイメージしました。 仕上げの自然素材は古びても美しく、瓦、無垢の木、塗り壁などは新建材と違った味わいがあり、年月を経るごとに愛着がわきます。特に珪藻土はわらスサを入れてオリジナル色をつくり、 ラフに塗ることで土壁風の懐かしい感じにしています。
日本の住まいのモジュールに合わせて素の形(構造)を表す
「起きて半畳、寝て一畳」という言葉があります。半畳は910mm×910mm、一畳はその倍、一坪はその倍、私たち日本人は畳や坪で部屋の広さを表してきました。 この家では、日本古来のモジュール(寸、尺といった単位)で造られる木組みの構造を出来るだけ目に見えるようにし、上棟したときに美しく、力強く感じられるようにしようと思っていました。 日本建築の美しさは足し算でなく、引き算といわれますが、その考えをこの家にもあてはめ、プラスしていくのでなく、原型を残すようにし、間仕切壁や建具も最小限にとどめました。 一階の天井は910㎜間隔で梁が架けられ、下屋と二階の勾配天井は垂木が455mm間隔で連なっていき、フラットな天井とは違いリズム感と深み、陰影が感じられます。
明と暗のある家—開放的なところと籠るところ
平面は規則的にしていますが、断面(立体)では変化をつけました。二階とロフトの床材はJパネル(両面杉板張の構造合板)を使うことで、浴室以外の天井は貼らず、 階高は低く抑えながらも、天井高は確保しました。玄関を入ってすぐの大階段はダイニングへ丘を上がるような気分にさせます。 さらに中二階、ロフトへと視覚的にも移動するにもわくわくするような構造となりました。 かわって階段下からは洞窟のような暗がりにこもる感覚をと、北側は頭が当たらないぎりぎりの高さにし、収納やアトリエ、DEN(書庫兼書斎)などにしています。 均一な天井高でなく高低のメリハリを付けることで、家の中に「明」と「暗」をつくりました。
家のなかのスキマ
南北方向は三間(910㎜の六倍)、北側の一間半と南側が一間、そして残りの半間がそのなかのスキマとなり、東西を貫く「内路地」となっています。 狭い空間にさらに「スキマ」という無駄なスペースのようですが、風が抜けていく感じが清々しく、東側隣地の緑が借景になります。 土間の床タイルが続き、半外部的な空間という、南北のゾーンを分けつつ緩やかにつなげる装置としての路地なのです。
住まいを散歩する—つながる空間
家全体が緩やかにつながっていくと、小空間ながら様々なシーンが見え隠れします。 路地の文庫本書棚、大階段の書庫、土間のベンチやダイニングの大テーブル等どこでも読書や音楽を聴いたりスケッチや仕事も出来ます。 日本家屋のように部屋の用途を限定しないさまよえる家です。
適材適所の収納とフレキシブルな空間
私たちは非常に多くの生活用品に囲まれて暮らしています。それらの居所を確保し整理整頓するのは快適な生活には最も大切、適材適所で仕舞い、素早く取り出したいものです。 大きな荷物やシーズンごとの荷物の置場として階段下を利用し、一階の北側の納戸を設けました。 ロフトは収納にはせず、開放的な空間として使い方を考えていました。すると離れて暮らしていた娘が新しい家のプランをみて、私も住みたい!と同居することに。 そこで急遽ロフトは娘の部屋となりました。普通なら子供部屋を新たに組み込んで設計し直すところですが、フレキシブルな空間があることによって自由に対応出来る家となりました。
省エネで温度差のない快適な環境
住暮楽さん仕様の断熱材、床下エアコン、土間クールをベースに、冬は大型のペレットストーブの輻射熱でじんわりと家全体が暖まります。 化石燃料や電力にあまり頼らない自然な温かみを実現しました。
これからの暮らしなど
住暮楽さんとのコラボレーションで希望以上の完成度の高い住まいが出来ました。家は完成してからが暮らしの始まりで、どう暮らしていくのか楽しみです。 敷居の低い気楽に集まりやすい場として人の輪が広がり、年に数回は生活デザインの話をしたり、住まいの提案を模型やスケッチで展示していけたらと思います。
(すみくらつうしん 2014年12月号より、転載)