リノベーション物語
住暮楽で家を建てられたお客様自身の文章を掲載しています。家づくりのヒントになれば幸いです。
孫が今風に住み継ぐ家
鞍馬のKさん
Kさんの家は、火祭りで有名な左京区の鞍馬にあります。鞍馬といえば、平安時代の末期、源義経が幼少の頃から青年になるまでを過ごしたというエピソードでも有名ですが、 始まりはそれよりもずっと古く、鞍馬寺が西暦七七〇年頃、火祭りが九四〇年頃とされています。 京の都と同じくらい古い歴史と伝統を持つ土地柄。しかし、急峻な山に挟まれた谷あいにあるため、日照時間が短く、冬には山からの寒風が吹き抜けて寒く、 住んでいる方々にとって気象条件の厳しい地域でもあります。 Kさんご一家と住暮楽とのご縁は、十年前、同じ敷地内にある母屋の建て替えを機に始まりました。「寒い鞍馬の冬を暖かな家で」を実現するため、OMソーラーを導入されることとなり、 住暮楽へ声をかけて下さったのです。当時、Kさんはその家の息子さんだったわけですが、今回はお施主さんとして親子二代に渡って住暮楽にご用命下さったという次第。 工務店冥利に尽きる、ありがたいお話!そんなことで、今回の計画はスタートすることになりました。
リノベーション
当初は新築も視野に入れた計画でしたが、鞍馬は建築に対する法規制が非常に厳しく、新築の場合は絶対的な床面積が不足することなどから、しばらく検討が進んだ段階で、 リノベーション一本に絞ることになりました。工事の対象となったのは、築五十年の離れ。十年前に建て替えさせていただいた母屋は、鞍馬街道に面しておりますが、 離れは奥へ入った山側にあります。以前は、Kさんのお祖父さんたちが住んでおられた建物で、近年は物置として使われていました。 改装前の離れはかなり痛んだ状態で、特に一階床の腐敗がひどく、畳があちこち抜け落ち、床を支える土台も、半分以上が腐ったり、 シロアリの食害でスポンジのように中身がスカスカになっていました。一方、二階は松や杉の丸太の軸組みが見事で痛みも少なく、 本格的な日本瓦葺きの屋根は、何とかギリギリ雨漏りが防がれていて、ちょうど私たちが改装工事に入ることを待ってくれていたかのようでした。
工事開始
工事に当たって、まずは中の物の整理を行いました。Kさんの家は、代々鞍馬の地に住み継いでこられた家系であることに 加え、お祖父さんの遺されたたくさんの本や茶器、書、すずり、石などがあり、それらを整理・分類して片付けることから始まりました。(思えば、これが工事の中で一番の大事業だったかも・・・) 住暮楽からも私や現場監督が派遣されてお手伝いに加わり、Kさんたちも休日返上で作業を進めてくださり一ヶ月ほどかけて整理完了。 一旦、屋根から瓦を下ろして、解体工事が始まりました。今回は、外壁から完璧にやり直す工事だったので、基礎と柱、梁、屋根の下地を除いて、 他の部分は全て撤去。解体完了時には、骨組みだけが残った状態になりました。
難所
基礎のコンクリートを補強した後、山場である土台の交換工事です。 建築物において材を交換する場合は、下に行くにつれて難度が増します。テーブルの上に五段ほど積んだ積み木を想像してください。一番上の積み木は簡単に交換できますが、 一番下の積み木を交換しようとすると、上の積み木を持ち上げる必要があるのでちょっと大変ですよね? 土台は、木造の軸組みの中で一番下に位置するので、ジャッキなどを用いて家の一 部分を数センチほど浮かしておいて、その間に取り替える必要があります。しかも、全体の半分以上の土台を交換する必要があったため、難作業になることが予想されました。 そこで今回はジャッキを新調。建築用の回転式大型ジャッキ二台と、油圧の爪付きジャッキを導入しました。特に油圧のほうは非常に効果的で、爪を土台と基礎の間に差し込むと、 容易に建物が持ち上がり、作業性が格段に向上しました。
余談ですが、今回土台の腐り方を調査した際、影響が顕著だったのは床下の湿気の状態です。改装前の家の基礎は三分の一ほどが土間コンクリートで覆われ、残りが床下に土がむき出しで見えた状態でした。 土には湿り気があり、その部分に面した部分は痛みがひどく、反対に土間コンクリートで湿気がシャットアウトされた部分はほとんど痛みがありませんでした。 腐敗菌もシロアリも、適度に湿気のある状態を好むので、当然ではあるのですが、あまりにも明確な差に驚きました。その後、リノベーションの計画時には床下の土間コンディションが、 計画を検討する際の指標の一つになっています。 難所であった土台の交換が終わると、そこからは通常の家作りとほぼ同等。古い家 のリフォーム特有の難しい部分もあり、手間の掛かる場面もありましたが、概ね順調に進んでいきました。
完成に寄せて
現在は、内部の工事がほぼ完了し、後は見学会を待つのみですが、その前に鞍馬では一年で最も大きなイベントである火祭りを迎えます。 ちょうどこの原稿が載るすみくら通信が皆さんのお手元に届く、 二十二日の夜がお祭りの日になります。 本来は祭りの後片付けをされる土日に、見学会の開催をご了解くださり、Kさんご一家には心から感謝申し上げたいと思います。 お祖父さんたちの家を、孫のKさんが受け継いで住まわれるということ、その家が鞍馬という千年の歴史を持つ地にあることを、作り手として大変意義深く感じております。 生まれ変わった家で、楽しい毎日を過ごしていただけることを願っております。どうもありがとうございました!
(すみくらつうしん 2015年11月号より、転載)
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