リノベーション物語
住暮楽で家を建てられたお客様自身の文章を掲載しています。家づくりのヒントになれば幸いです。
快適な生活動線と借景を取り込んだリノベーション
Tさんリノベの設計ストーリー
文・岸本洋介(設計者)
設計が始まる際、よくお施主さまから今の家で困っていることをお聞きすることがあります。
「周囲に良い景色があるのですが、今の家からはそちらが見えないんですよね」
Tさんの家は八瀬の入口あたりに位置していて、北には森の緑が、東には竹林寺の印象的な赤い屋根や蓮華寺の見事なお庭があるにもかかわらず、確かにそちらへ向けて開かれた窓はほとんどありません。
「床下がいつも湿気ていて、シロアリも気になって…」
確かに山が近く、敷地の北側には水量豊富な水路があって、通常の敷地条件に比べて湿気は多い様子。さらに基礎高も低く床下の地面と近いので余計に湿気が上がりやすい条件になっています。
「お風呂が小さくて…」
リフォーム前のお風呂のサイズは0.75坪。Tさんのご主人は背の高い方なのでこのサイズだと入浴時に浴槽が窮屈になります。
「間取りで気に入っている所もあって、LDKが広い所や、キッチンからバックヤードにつながる動線はとても助かってます」
LDKの心地良さは設計中にお招き頂いた際に感じました。広々していて適度な明るさ。タタミスペースとの繋がりもいい感じ。
建築のお話が始まる時は、このように気に入っている所はあるものの、困っていることが大勢を占めているという状態にあるお客様が大変多くいらっしゃいます。
お困りごとの大半は家のつくり自体に問題があり、工事をしないで解決することが難しいものばかりです。Tさんが挙げてくださった内容以外では「夏暑い・冬寒い」「暗い」「収納が少ない」「動線が悪い」などなど。
これら暮らしの質に関わる部分は本来、家のつくり手がきちんと対策し、工夫して作るべきことなのですが、数値化や客観的指標を持ちにくいためか、安く・早くという明確な経済合理性に負けてしまうようです。結果、安くて工期の短い家が大量に作られますが、どこか不満のある家が多くなるのです。
住暮楽のリノベーションは、お困りごとの多い家のつくりを根本から見直し、暮らしの質を上げるという点に重きを置いています。今回の工事では広々した心地の良いLDKはそのままに、収納計画や水回りの動線を見直して、それぞれ役割を持った空間が有機的な繋がりを持てるよう意識しました。
ふと窓に目をやると、飛び込んでくるのは周囲の借景。景色というものはテレビや映画のように「観る」ものではなく、生活の折々に自然と目に入るものですから、階段を上がった場所や、長い時間を過ごす場所など、ふと視線を向けやすい所に窓を開けました。
床下は湿気を防ぐために土を20㎝くらい掘り下げ、防湿コンクリートを打設してカラッと乾いた床下空間としました。その上で全体の断熱を強化し、冬でもポカポカと暖かく暮らして頂けるようになっています。
(すみくらつうしん2023年12月号より転載)
リフォーム前 | リフォーム後 |
外観 | |