リノベーション物語
住暮楽で家を建てられたお客様自身の文章を掲載しています。家づくりのヒントになれば幸いです。
ドアを開けると木のおうち(マンション・リノベ)
賃貸か持ち家か?
賃貸か、持ち家か。よく比較される事だが、中年おひとりさまの場合はどうだろう。家族がないぶん身軽だし、誰かに家を残す必要もないし。賃貸でもいいか—。両親が亡くなり、 実家を引き払って賃貸マンションに引っ越した当初は、そう思った。しかし入居した部屋は思った以上に手狭で、本棚を置くとカニさん歩きでカーテンを開け閉めする羽目になった。 また、鉄筋コンクリート造にもかかわらず上階の咳払いまで聞こえるのに驚いた。壁の隙間からは隣室の煙草や料理の匂いが入ってきた。ここは若い“夜行性”カップルが入居し、 深夜・明け方の話し声や出入りの音で目が覚める事もしばしばで、早々に転居を考えるようになった。しかし、広くて作りのしっかりした分譲賃貸物件は家賃が高い。 あれこれ迷ううちに夜行性カップルの話し声はパワーアップした。ぶーんという機械音(たぶんヘアドライヤー)と共に、「それでなっ、勉強も仕事もできひん言うてなっ」 分かった。分かったし、夜中は静かにしてぇな。…「ええい、買うかっ」。
リノベーション
かくして不動産のチラシやウェブサイトを連日チェックする日々が始まった。だが私の乏しい予算(もちろんローンだ)では、戸建は難しい。 となるとマンションである。だが、どの物件も間取りや内装が画一的で、のっぺりした床やビニールクロスの壁が味気ない。 木を使った、シンプルで風の通る、そして趣味の楽器を楽しめる部屋が欲しい。それなら中古マンションを全面改装するのはどうだろう。 インターネットで探すと、他府県では自然素材を用いたリノベーションの専門業者が見つかったが、京都では…。そこで浮かんだのが住暮楽さんだった。
お知り合い
岸本さんご一家とは以前からお付き合いがあったけれど、お話しするのは専ら奥様の祐子さんとであって、旦那様のクラさんこと八郎さんは、 「男は黙って○ッポロビール」(古っ)という寡黙な印象であった。だが、八郎さんのOMソーラーの家作りについて熱く語る文章を読ませて頂く機会があり、 「こんな事考えたはったんや」と驚いた。また住暮楽さんの手がけたリフォーム物件を拝見し、ここなら私の思うような部屋作りをお願いできるかもしれないと考えた。 祐子さんに相談すると「やりますっ」と元気よく言って下さった。八郎さんの方は「まずローンが組めるかどうかや」と冷静だった。不動産業者を紹介してもらうと、 程なく手頃な物件が見つかり、銀行の住宅ローンも何とか(自営業ゆえ審査に時間と手間が掛かった)下り、相談してから3カ月で家作りの準備が整った。 設計は総領息子の洋介君が担当してくれると言う。「マンションのリノベーションは初めてなんですよねえ」と、のどかに言うので、ならば魁になろうやないかと覚悟を決めた。
百年マンション
ところで購入した物件は築43年の旧耐震基準・既存不適格、住宅ローン減税も対象外である。それでも購入に踏み切ったのは、もちろんお手頃価格だったからだが、 加えてこのマンションは管理が行き届いているので有名であった。定期的な大規模修繕はもちろん、耐震診断を受け計画的に耐震補強工事を行い、住民が協力して建物を守って行こうとする姿勢が感じられた。 長く勤めている管理人さんは「うちは百年マンションを目指しています」と胸を張った。 さて、室内をスケルトンにすると、さすがに築古ならではの問題点が出てきた。特に天井の低さである。直張りなので階高を上げることはできず、しかも中央がたわんで数センチ下がっていた。 当時の施工知識の故か、とりあえず天井が落ちることはないというので様子見である。 結露の原因となりやすい壁面にはセルロースファイバーの吹き込みを、窓はペアガラスや二重サッシで断熱、配管の都合上一つになっていた洗面脱衣所とトイレは、 現場で上手に工夫してスペースを広げて下さった。また、集合住宅では音の問題が起きやすい。特に現在騒音に悩まされている私にとっては重要事項である。 無垢板を使う二重床では太鼓現象が起きやすく、階下に生活音が大きく響く恐れもある。そこで床下にもセルロースファイバーを吹き込んでもらった。そして念願の音楽室である。 もともと楽器演奏可の物件であり、所詮オバチャンの趣味の部屋である。本格的な防音室は必要ないが、下手な演奏で周囲のお耳汚しとなる事は避けたい。これも予算内で工夫して頂いた。
永く大切に
この文章を書いている時点では工事は未完成である。床の遮音性能については、物件の床スラブの厚さや構造にも左右されるので、実際に住んでみないと結果は分からない。 しかし、しっとりと落ち着いた珪藻土の壁に、杉床の木の香りが爽やかな、住暮楽さんらしい部屋に仕上がりつつある。 仕事柄、不動産投資に携わる方々の話を聞く機会も多いのだが、「簡単に建てられて簡単に壊せる物件」「安くて見栄えのする建物」が持てはやされる事も多く、少々違和感を覚えていた。 今回の「マンションの中の木の家」作りを通して、それとは逆の方向性—既存の建物の再利用や、経年で劣化するのではなく味わいを増すような素材を使う建物について考える機会となった。
今年の楽しみ
最後になりましたが、築古物件の購入を迷う私に「つぶれへんで」とシンプルな一言で背中を押して下さった八郎さん(ちっとも寡黙ではなかった) 、銀行の融資担当者も和ませる無敵の笑顔で、あれこれ心を配って下さった祐子さん、「住暮楽は身体に悪い物を使ってませんから」と、誇りを持って仕事に取り組む洋介君、 そして事務や現場を支えるスタッフの皆さん、お世話になりました。今年は部屋にクリスマス・ツリーを立てる事ができそうです。
(すみくらつうしん 2014年10月号より、転載)
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